許してあげる人

4,295 回視聴

イイソップ寓話「狐と鶴」で鶴は自分に平たい皿に盛った料理を出してくれた狐を招待し、ひょうたんに料理を入れて出してあげる。狐は鶴にしてやられたように料理を見て舌打ちばかりする。他人の立場を配慮しようという教訓が盛り込まれたこの話は、「やられただけ返す」という痛快な復讐劇として描かれていたりもする。

自分がやられた分、他人に返せばすっきりすると思うが、怒りと敵対感は自分の健康に悪影響を及ぼす。腹が立つ時、脈拍が速くなったり呼吸が遅くなる症状は、否定的な感情が脳を刺激して生じるストレス反応だ。ストレスホルモンが自律神経系に影響を与え、心臓の鼓動が速くなれば、私たちの体は緊急状況から抜け出すために心臓と脳に流れる血流を拡大させる。筋肉は緊張状態を維持し、免疫システムの作動が抑制される。このため、心臓疾患や他の病気が発生する可能性が高くなる。

反面、血気を下げて相手を許すことを決心すれば、身体は安定した状態に戻る。肯定的な考えはストレスホルモンの分泌を減らし、身体を弛緩させるのに役立つ。免疫システムが元に戻り、血圧が正常化し、頭痛と不安感が消える。気楽な心構えのおかげで、集中力が高まり、エネルギーが生まれる。

このように他人を許すと、結局自分の役に立つ。米ピッツバーグ大学心理学科で行った研究によると、自分を深く傷つけた人に複数の手紙を書いた人より、許す手紙を書いた人の自己非難が減少した。また別の研究では、許した経験のある人が自らの暖かさ、道徳性などをより高く評価した。許しが自我の回復に大きな役割を果たすという結論だ。

心に傷を受けた分だけそれを返しても痛みが消えることはない。そのことを考えながら相手を恨んだり、相手の過ちを暴けば、自ら感情の溝にはまって抜け出せなくなる。そういう意味で許しは、憎しみに捕らわれて失った自分の元の姿を取り戻し、状況と相手を正しく見つめる道である。相手を真に許す人が心に溜まった痛みを下げることで、自分を大変にしていた過去から抜け出して明日に向かって進むことができる。

スデバンは殉教する直前、自分を石で打った人々のためにった。無念な死の前に彼らを恨まずに許す姿は、御自分に対敵した者たちを直ちに刑罰されず十字架の苦痛の中でも「彼らを許してください、彼らは彼らがすることが何なのか分からないのです」と言われたキリストの姿に似ている。スデバンもやはりキリストが御自分の宝血で私たちに罪の赦しをくださった恵みと愛の深さを悟ったので、他人を許す人生を生きたのだろう。

一万タラントンの借金を帳消しされた僕が、自分に百デナリオンの借金をした同僚を責め、主人の怒りを買ったというたとえを聞かせ、イエス様は、兄弟がたとえ私に罪を犯しても心から彼を許しなさいと言われた。私たちは神様から大きな贖罪の恵みを受け、天国の輝かしい栄光まで約束された。神様にこの上ない傷を与えた自分の罪を心から悔い改めれば、私にそれより小さい傷を負わせた人を許さない理由がなく、キリストの心で見れば相手を憎む理由もない。覚えていよう。私たちは一万タラントンを免除された人々だ。