地下鉄駅のおばあさん

2,058 回視聴

「Mind the gap(マインド・ザ・ギャップ)」とは、「駅のホームと列車の間にできる隙間に気をつけてください」という意味で、一時ロンドン地下鉄の各駅で、無名俳優の甘く聞き心地の良い声で「Mind the gap」の案内放送が流れていました。しかし、時が経つにつれてデジタル技術が導入され、案内放送は徐々に進化し、2012年11月には彼の声が残っていた唯一の駅、エンバンクメント駅まで案内放送が変わってしまいました。ところがしばらくして、そこから彼の声が再び流れ始めたのです。いったい、どういうことなのでしょうか?

エンバンクメント駅には、毎日のようにやってきて地下鉄には乗らず、プラットホームにじっと座り続け、しばらくしたら立ち去るおばあさんがいました。 彼女が駅を訪れる理由は、2007年に亡くなった夫の声を聞くためでした。彼女はまさに、アナウンスの声の主だった俳優の妻でした。案内放送が新しく変わり、もう夫の声が聴けなくなると知ったお婆さんはショックを受け、その事情を聞いたロンドン交通局が、彼女の夫の声が録音された案内放送をリバイバルさせたのです。

忙しく行き交う人波の喧騒の中をかすめるように響き渡る案内放送。それは、おばあさんにとっては夫を想い出して懐かしむと同時に、幸せを感じるひと時を彩るサウンドだったのでした。