百獣の王、食物連鎖の最高捕食動物であるライオンであっても、狩りは簡単なことではありません。草食動物は常に警戒態勢にあるので、敵が近づくとすぐに気づいて逃げてしまう上に、追撃にも命がけで逃走するからです。ですから野生のライオンたちは、満腹の時よりも空腹な時の方が多いそうです。南アフリカ共和国のマディケ動物保護区で狩りに成功したライオン一匹が、本能に逆らう行動を見せて話題になりました。
追撃の末、ガゼルの首根っこに噛みついて倒した後、息の根を止めて飢えを満たし始めた雌ライオン。そして、ガゼルのお腹の中から何かを見つけて、口でくわえてそうっと地面に下ろしました。それはガゼルの赤ちゃんでした。雌ライオンが捕まえた獲物は、お腹の中に子を宿し、生きていたらやがて母親になっていたはずのガゼルでした。雌ライオンは赤ちゃんガゼルをじっと見つめ、前足でつつきました。それでも反応がないので、周りの草でガゼルを覆いました。そして母ガゼルを食べもせず、しばらくその場にじっとしていました。
その様子を見ていた公園の管理人は、「まるで雌ライオンが子持ちの母ガゼルを捕まえた自らの行動を悔やんでいるように見えた」と言いました。冷酷な弱肉強食の世界でも、母という存在は心をジーンとさせる何かが存在するようですね。